新たな観光形態:農業×宿泊=農泊が地域にもたらす効果

2024.04.25

1.はじめに

新型コロナウイルス感染症の影響で、2020年から2021年にかけて旅行需要が大幅に減少し、観光産業は苦境に立たされました。

しかし、2022年にはまん延防止等重点措置が解除され、10月には旅行支援が始まり、観光需要は急速に回復しています。

ポストコロナの今、旅行者のニーズはますます多様化しており、多くの旅行者を呼び込むだけではなく、旅行者のニーズの変化を的確に捉え、持続可能な観光や消費額の拡大、地方誘客の促進といった「質」の高い観光を実現していくことが重要です。

そのような状況下で、国内外の旅行者にとって、地域に根付いた日常の「暮らし」に関わるコンテンツこそ、魅力的な非日常体験として価値が高まりつつあり、「農泊」が注目されています。

本稿では農泊に焦点を当て、農泊のメリットや効果、課題等、いくつかの事例も含めて紹介していきます。

2.農泊とは(概要・定義)

農林水産省によると、「農泊」とは、農山漁村に宿泊し、滞在中に豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ「農山漁村滞在型旅行」と定義されています。

地域資源を観光コンテンツとして活用し、インバウンドを含む国内外の観光客を農山漁村に呼び込み、地域の所得向上と関係人口創出を図ります。

3.農泊の狙い

「農泊」の狙いは、2つあります。

1つ目は、食事や体験、宿泊等の地域資源を観光コンテンツとして提供し、農山漁村への滞在と消費を促進することです。

もう1つは、地域に雇用を生み出し、持続的な収益を確保することで、地域における「しごと」を創出することを意図しています。

また、多様な交流によるリピーターを生み出すことで、長期的には移住や定住を促進し、関係人口を増やすことも目指しています。

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4.農泊施設の種類

近年の農泊における宿泊施設は古民家や農家民宿施設を中心に、ゲストハウスやコテージといった既存宿泊施設、中には空き家や廃校をリノベーションした施設まであります。

農林水産省も積極的に農泊事業を推進しており、古民家の整備に対して補助金を交付する等の取り組みを行っています。こういった地道な取り組みの積み重ねにより、国の支援により整備した古民家施設数は平成29年度から5年後にはおよそ10倍に増加しています。

<参考:農林水産省 農村振興局都市農村交流課「農泊をめぐる状況について」>

また、全国では621の地域が農泊地域*1として農泊推進に取り組んでいます。(2023年3月時点)

*1:農泊地域とは、農山漁村振興交付金による農泊推進の支援に採択され、農泊に取り組んでいる地域を指す。

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5.農泊の体験プログラム

農泊の体験プログラムには農作業体験のほか、観光客のニーズの多様化に伴い、地元料理の調理体験、伝統芸能・文化体験、地域の地形や景観を活用したサイクリングなどのアクティビティと多岐にわたっています。

農作業体験では実際に田植えや作物の収穫を体験することはもちろん、小学生の体験学習の受け入れや親子での体験など教育や探究学習のコンテンツとしても人気があります。

また、農泊の大きな楽しみといえば、食は欠かせません。地元でとれた新鮮な野菜や、伝統料理の調理体験等、その地域ならではの食文化に触れることは旅行者にとっては大きな目的の1つといえるでしょう。

旅行者が農泊に期待する最大のポイントは、そこでしかできない非日常体験にあります。農村地域で農泊を盛り上げていくためには地域にあるコンテンツを磨き上げ、自分たちの魅力を発信していくことが重要となります。

6.農泊の事例

京都府綾部市

京都にある「一汁一菜の宿 ちゃぶダイニング」では東京での共働き生活から移住した夫婦が、築100年以上の囲炉裏のある古民家(元村長の家)を農家民宿として開業しています。「一汁一菜」のシンプルな食事、小さな農作業体験、地元の人々との交流を通して、自然・人と繋がる喜びや、心に余白のできるゆったりとした時間と空間を提供しています。

農泊体験 | 農家・古民家に宿泊!気軽に田舎暮らし体験 | VELTRA(ベルトラ)

京都府・和束町

京都府・和束町にある「篤庵」では、陶芸家でもあるオーナーのもと、抹茶茶碗の製作を体験することができます。また、和束は京都で生産される茶葉の約半数を生産する程、茶畑生産が有名な町であり、季節によってはお茶摘み体験も提供しています。

7.農泊の課題と今後の展望

農泊における課題としては、大きく宿泊地のホスピタリティの整備、宿泊平均単価の底上げ、体験型コンテンツの多様化の3つが挙げられます。

宿泊施設含めた周辺の環境整備については通信インフラ、言語対応等のソフト面での整備や洋式トイレ等のハード面での整備も必要になっています。特に外国人観光客を意識して集客するうえでは更なる利便性の向上が求められます。

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また、農泊における平均単価が観光全体と比較して、安価にとどまっており、高付加価値化に向けたコンテンツの提供や体験型プログラムの多様化等が求められています。

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8.まとめ

農泊は、都市での生活から離れて自然と触れ合い、農作業や地域文化に触れることができる貴重な体験です。

新たな地方創生の形として注目度も高く、農泊を推進することで、農業だけではなく観光業に大きなプラスの効果をもたらし、今後の観光振興を考えるうえでも大きな柱になると考えられます。